PROLOGUE // PCエンジンの命運を背負った『いさお』
本作のタイトルは「ザ・クンフー」と読む。
※間違っても、画面の前で堂々と「ザ・いさお」などと発音してはいけない。
「功夫」を「いさお」と誤読した瞬間、レトロゲーマーとしての教養(と昭和のニオイ)が露呈してしまう。
このゲームは、起動する前から既にプレイヤーの人間性を冷酷に選別しているのだ。
このソフトは、PCエンジンの記念すべき「Huカードソフト第1弾」として本体と同時発売された。
言うなれば、当時の絶対王者であったファミコンに対し、「どうだ、これが次世代機の圧倒的パワーだ!」とハードの実力を見せつけるために放たれた、文字通りの「看板ソフト(キラータイトル)」である。
通常、ハードのロンチ(同時発売)タイトルとなれば、メーカー側も社運を懸けて全精力を注ぎ込んでくる。
なぜなら、そのソフトの「出来・不出来」が、新ハードの今後の運命を左右すると言っても過言ではないからだ。
当然、ハドソンが放つこの「THE 功夫」も例外ではなかった。
……しかし。
悲しいことにこの「THE 功夫」は、「次世代機のパワーをアピールしようとフルスイングした結果、見事に空振りしてバットが客席に飛んでいってしまったソフト」なのである。
(1987年11月21日発売 PC-Engine ハドソン)
新ハードの命運という重すぎる十字架を背負って爆誕した刺客。
その過剰なプレッシャーが、本作をのちに「伝説の迷作」へと歪ませることになるとは、当時の開発陣も知る由はなかった。
内容は、迫りくる敵をなぎ倒しながら右へと進んでいくオーソドックスな横スクロールアクション。
身も蓋もない言い方をすれば「リアル等身版のスパルタンX」とでも思ってもらえればいい。
ただし「リアル」なのは等身(キャラのデカさ)だけであり、この先、物理法則や倫理観といったリアリティは宇宙の彼方へと吹き飛んでいくことになる。
THE HERO // 瞳孔ガン開きの暗殺者、ワンさん
さあ、本作の主人公は中国カンフー界を救うべく立ち上がった漢、王さんである。
「……俺の出番か?」
……大変申し訳ないが、王と書いて「ワン」と発音する方の王さんです。
「!!」
世界のホームラン王、痛恨のフライング。
まさか国民的英雄をB級カンフーゲームのツッコミ要員として消費する日が来るとは思わなかった。
ごめんなさい王監督。
気を取り直して、こちらが本物の王(ワン)さんに登場してもらいましょう。
歩行中のワンさん。(※大胸筋にご注目ください)
妙にプルプルと揺れる大胸筋。
さすがはPCエンジンの看板ソフト、次世代機の圧倒的なマシンパワー(容量)を、なぜか「筋肉の無駄に滑らかな描写」に全振りしている。
それにしてもこのワンさん、どこかで見たことのある顔をしていないだろうか?
+
÷ 2 =
結果:致命的なまでの中途半端さ
偉大なる二つの遺伝子が完全に相殺し合った結果、「どこにでもいそうなカンフーおじさん」という独自の孤独なフォルムへと着地してしまった。
そんなパクリと妥協のハイブリッドである彼の目的は、「暗黒帝王」の異名を持つ中国カンフー界の不届き者を抹殺すること。
そう、彼は正義の暗殺者なのだ。
……しかし、正義の暗殺者にしては少々「顔周り」に問題がある。
いや、目が危ない。
尋常ではない眼球の充血。完全にキマっている。
酒気帯びなのか、違法な何かに手を出しているのか。少なくとも、正義の使者がしていい瞳孔の開き方ではない。
本当にこの男にカンフー界の未来を託して大丈夫なのだろうか。
THE MOVES // 暗殺拳の全貌(※下段攻撃は未実装です)
そんな瞳孔ガン開きの危険な暗殺者、ワンさん。
さぞ多彩で残忍な殺人術を極めているのだろう。中国カンフー界の命運を託された彼の「全スキルツリー」がこちらである。
上段パンチ
中段パンチ
中段横蹴り
垂直跳び蹴り
斜め跳び蹴り
……以上である。
いや、引き出しが少なすぎる! そして何より、致命的な欠陥がある。
なぜ「下段」を出さん!?
どうやらこの男のシステムには「しゃがむ」「下段を攻撃する」という概念そのものがインストールされていないらしい。そのため、敵のAIはここぞとばかりにワンさんのガラ空きの下半身(足元)へ容赦ないゼロデイ攻撃を仕掛けてくる。
「天を向いて戦え」という高尚な精神論か、それとも単なるROM容量の限界による仕様(バグ)か。
いずれにせよ、下段ガードすらできない暗殺者が生き残れるほど、カンフー界(アクションゲームの世界)は甘くないのである。
SYSTEM CRASH // リソース全振りの代償(デカすぎる男)
とりあえずゲームスタート。
戦いの地へと降り立ったワンさん。
突然だが、あなたはこの画面を見て、何か「致命的なアンバランスさ」に気づかないだろうか?
「後ろの背景が水墨画っぽくて手抜き?」……違う。
このゲームの舞台は中国なので、そこは強引にアリだ。
ヒント:(画面全体に対する人物の占有率を見てほしい)
……もうお解りだろう。正解は「キャラが異様にデカい」のである。
THE 功夫
スパルタンX
名作「スパルタンX」と比べてみると、その狂気の違いは歴然。
恐ろしくデカい。
PCエンジンの次世代機としての実力(リソース)を、あろうことか「キャラのサイズ」だけに全投資した結果、画面全体が深刻な窒息状態に陥っている。
実はこの「THE 功夫」、冒頭でも触れた通り、その異様なまでのキャラの巨大さと無駄な大胸筋のリアルさを代償に、アクションゲームとして大切なものをすべて犠牲にしてしまったのだ。
キャラが余りにもデカすぎる為に、相対的に画面(フィールド)が著しく狭くなってしまい、主人公の行動範囲がかなり制限される。例えるなら「狭い公衆トイレの個室で、壁にぶつからないよう気を使いながらシャドーボクシングをしている」ような感覚だ。ただひたすらにストレスが溜まる。デカけりゃいいってモンじゃない。
跳び蹴りなどを繰り出そうものなら、画面のフレームから飛び出しそうな勢い。
狭いゲームの世界から、現実世界への脱獄(エスケープ)を企てているようにすら見える。
キャラがデカいということは、その分「周囲を見渡せる視野」が極端に狭くなるということだ。
結果として、敵がこちらに向かって来ても、画面の端から出現した瞬間=主人公に重なる直前となる。
「敵を視認してから対処する」というアクションの基本設計が完全に崩壊しているのである。
気づいた時にはもうこの距離(死の直前)。
「目で見て避ける」のではない。「死を受け入れるか、勘で殴るか」の二択を常に迫られるデスゲーム仕様だ。
このように「THE 功夫」というソフトは、ハードのグラフィック性能を見せつける方向にリソースを全振りした結果、見事に空回り(システムクラッシュ)してしまった悲しき作品なのだ。
……しかし、ここで電源を切る訳にもいかない。圧倒的なキャラのデカさと視野の狭さに戸惑いながらも、プレイ続行である。
THE ASSASSINS // フード僧という存在証明
しばらく進むと、何やらフードを被った怪しい僧が接近してくる。
どうやら暗黒帝王側もワンさんに刺客を送ってきた様だ。
しかし、この刺客たち、何故か一切の攻撃モーションを見せない。
ただ無表情で、ひたすらワンさんに向かってトボトボと歩いてくるだけである。
ところが恐ろしいことに、ワンさんはこの無抵抗の僧とすれ違いざまに軽く接触しただけで致命的な大ダメージを受けてしまう。
弱 い ぞ 暗 殺 者 !!
ただ歩いているだけの通行人と肩がぶつかっただけで瀕死に陥る暗殺者。
満員電車に乗ったら開始2秒で死ぬレベルの虚弱体質だ。
「暗殺者」という厳つい肩書きは、どうやら身内向けの自称らしい。
とはいえ、やられっぱなしではない。ワンさんの理不尽な鉄拳がヒットすると、僧共は星になる勢いで画面の彼方へとぶっ飛んでいく。
この無駄に爽快なボコボコ感がたまらない。
PCエンジンの無駄な底力が、「敵が星になる美しい直線軌道」にだけ全力投球されている。
さて、この歩くだけの僧侶たちにも無駄に3種類のバリエーションが存在するため、ここで彼らの奇妙な生態を紹介しておこう。
TYPE-1 // ノーマルフード僧(ただの通行人)
ただひたすらに主人公へ向かって直進し、画面外へ去っていくだけの僧。
こいつらは「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる」とばかりに大量発生してくるザコ中のザコだ。
大量発生時。
集団で歩行するだけで脅威となる新手の迷惑行為。
どれだけカンフーの達人であろうと、休日の観光地のような圧倒的な人混みには勝てないのだ。
TYPE-2 // 輪島功一僧(意味不明なフェイント)
別に気分が悪くてうずくまっている訳でも、人生に疲れている訳でもない。
ましてや野外で脱糞中などでは断じてない。
こいつは主人公の直前まで近づくと、突然しゃがみ込むというフェイントらしき行動を取る。
その姿が元ボクシング世界王者・輪島功一氏の必殺技「かえる跳びアッパー」の溜めモーションに酷似しているため、勝手に輪島功一僧と命名した。
渾身の「スカッ!」
しかし恐ろしいことに、彼はしゃがんだ後、攻撃を一切する事なく、何事も無かったかのように立ち去っていく。
ただ道端で靴紐を結び直しただけのおっさんに対し、過剰に警戒してしまった暗殺者の図。一体何がしたかったんだ。
TYPE-3 // 視覚攻撃僧(極彩色のテロリズム)
行動パターンはノーマル僧と同じだが、耐久力が異常に高く設定されている。早めに倒さないと懐まで突っ込んで来られ、非常に厄介な敵になる。
しかし、彼らの真の恐ろしさはその耐久力ではない。そのドギツイ「発光色」こそが最大の凶器なのだ。
※あまり見つめると目がチカチカするので注意!
画面越しにプレイヤーの視神経を直接削りに来る、極彩色のテロリズム。
これはもはや格闘ゲームではなく、どれだけ画面を直視できるかの我慢大会である。これまでに何人のプレイヤーがこの閃光に目をやられた事か。
……しかし。
驚くべきことに、このゲームにおいて本職の「刺客(僧侶)」たちは大した脅威ではない。
真の恐怖は別にある。ストーリーと全く関係の無い、虫、岩、石、鞠(まり)、ナイフ、斧、鎌、蛇、扇子、挙句の果てには人魂までもが、何故かワンさん目掛けて殺意100%で襲いかかってくるのだ。
そっちの方が100倍脅威である。
大自然から心霊現象に至るまで、万物に命を狙われる男。ワンさんは前世で一体どれほどの悪行を重ねたというのか。
彼の業の深さそのものが、このゲームの理不尽な難易度を形成しているのである。
THE ITEM // 唯一の同志、その正体
しかし、そんな敵多し男ワンさんにもたった一人だけ味方が存在します。
しかもその味方とはワンさんの負った傷を治してくれるという癒し系な人らしいのです。
どうやらワンさんは孤独な男では無かったみたいですね。さあ、そんな敵多しワンさんの唯一の味方とは──
ただの烏龍茶でした
しかもパック入りな所がニクイ!
癒し系の正体が飲料。孤独にマイナス、健康にプラスという計算はどこかで間違えている。
重力を無視して宙を舞う烏龍茶
癒し系というより、完全に「怪奇現象」の類である。飲めるかこんなもん。
カンフーの修行中に唯一の味方として現れました。
パック入りなのは嬉しいのですが、重力を無視して空を飛び回るため非常にストローが挿しづらいです。ていうか怖いです。
リピートはしません。
結局孤独なワンさん
しかしワンさんは孤独に慣れているのかはたまたやせ我慢か、そんな事は気にも留めずに荒野を進んで行くのでした。
STAGE 1 (前編) // ハゲ軍曹と必殺拳
そしてしばらく進んでいくと……
何やら軍人らしきハゲ登場
どうやらコイツが最初のボスの様です。
顔で少々損しているが、見かけで判断してはいけない。
そんなハゲの軍人、ハゲ軍曹の華麗な技の数々とは──
顔面掌底
中段前蹴り
以上である。驚くほどの容量の節約。エコの先駆けだ
やっぱり技が少なすぎ……と侮るなかれ、これが異常に強い。
本作のボスAIは、他の格闘ゲームとは一線を画している。
一言で表すなら「プレイヤーへの嫌がらせに特化した読心術」だ。
「今は動いてほしくない」と願った瞬間に動き、「そこには判定置かないで」と祈った場所に無慈悲な拳を置いてくる。
制作者の底意地の悪さがそのままプログラムされたかのような、エスパー級の理不尽AIなのだ。
しかし、我らが主人公ワンさんも伊達に暗殺者を名乗ってはいない。
このエスパーハゲに対抗すべく、長年の修行の末に「2つの超絶必殺拳」を編み出してきたのだ!
デカパンチ
拳が突如として巨大化し、ボスのライフを3つも奪い取る豪腕の一撃!
百烈拳
圧倒的な連撃で、ボスのライフを4つも消し飛ばす究極奥義!
おお!字面だけ見れば、一発逆転のカタルシスに満ちたロマン技である!
……しかし、現実はそんなに甘くはなかった。
この究極奥義、発動条件に「致命的な欠陥」を抱えていた。
なんと、「敵の攻撃をノーガードで数発喰らい続ける」ことでしか発動しないドM仕様なのだ。
デカパンチを撃つには2発、百烈拳に至っては3発、無抵抗のままタコ殴りにされる必要がある。
必殺拳の真実 // 損益計算書
ここで、冷静にこの必殺技の「費用対効果(ROI)」を計算してみよう。
【デカパンチ】
ワンさん2被弾 + 技発動 = ボス3ダメージ
▶︎ 純利益:1ダメージ
【百烈拳】
ワンさん3被弾 + 技発動 = ボス4ダメージ
▶︎ 純利益:1ダメージ
……結局、通常攻撃(1ダメージ)を1発当てるのと同じじゃねーか!!
なんという見掛け倒し。ワンさんは、己の肉体を削りに削って「差し引き1ダメージ」を稼ぐためだけに、血を吐くような修行を積んできたというのか。
彼のカンフーは、まず算数のドリルからやり直した方がよさそうだ。
強敵(おもに自分の燃費の悪さ)との死闘を制した漢の姿。
己の肉体を削りに削る「純利益1ダメージ」の泥沼の削り合いの末、ついにハゲ軍曹がその膝を折った!
勝者はワンさんだが、彼が流した血の量はおそらくボスより多い。
これを世間では「辛勝」ではなく「自業自得」と呼ぶ。頼むから早く烏龍茶を飲んでくれ。
STAGE 1 (後編) // 終わらないハゲの輪廻と、失われた尊厳
相手への礼も忘れない漢、ワン。
それに引き換え、敗れたハゲ軍曹の方は余りにも情けない格好で戦意喪失中である。
その姿はまるで「スーパーのお菓子売り場で駄々をこねているガキ」の様だ。
かなり情けない。
これでよく「軍曹」を名乗っていたものだ。部下への示しが全くつかない。
哀れなハゲ軍曹を放置し、とっとと次のステージ(1-2)へ進むとしよう。
次のステージと言っても、夕方になっただけで背景は全く同じである。
開発陣の予算とアイデアが尽きた瞬間を、リアルタイムで追体験できる親切設計だ。
この面では、道中で謎のフェイントをかます「輪島功一僧」が初登場し、プレイヤーを大いに困惑させる。
しかし、最深部で待っていたのは更なる困惑であった。
この面のボスも、何故か懲りずにハゲ軍曹でした。
しかし結果はまたしてもワンさんの勝利!
そしてハゲ軍曹は、またしても情け無い姿で戦意喪失中。
その姿はまるで「おねしょをしてフテ寝しているガキ」にそっくりである。
情けなさ過ぎる(軍曹の威厳ゼロ)。
同一人物が連敗でこの格好。自軍の士気はとっくに崩壊している説が濃厚である。
さあ、気を取り直して次のステージ(1-3)へGO!
しかし予想通り、夜になっただけで背景は特に変化無し。
「時間の経過のみでステージを量産する」という、技術者の達観が透けて見えそうである。
やっぱりボスも変化無し(3度目)。
使い回しが多すぎるぞハドソン!!
しかし、3度目の登場となる今度のハゲは一味違っていた。
過去二度の敗北をバネに、ついに彼が「自身初となる必殺技」の封印を解く!
ワンさんを確実に仕留めるべく放たれた、その戦慄の新技とは……
『 頭 突 き 』
……3回も引っ張っておいてソレである。もはや天丼というお笑いのセオリーすら放棄した、圧倒的なまでの引き出しの少なさ。
「ハゲが頭突きを繰り出す」という哲学的な矛盾を抱えたその一撃は、彼の努力も虚しく悲しいほどに見掛け倒しであった。
ハゲ、完全敗北。
一日に同じ相手に三度負けるバカはそうは居まい。
例の如く、情け無い姿で戦意喪失中のハゲ。そ、その姿はまるで・・・・
オゲレツ親父。
もはや「命乞い」のベクトルを完全に間違えている。
軍人としての誇りはおろか、人類としての尊厳すら投げ捨てた禁断の構えである。
これにはワンさんが敗北(ドン引き)。
危ない危ない、一歩間違えれば「THE・功夫」が「THE・官能」になるところだった。
ワンさんの貞操が守られたことだけが、今回の唯一の救いである。
BONUS STAGE // ヌンチャク使いの謎
ハゲ軍曹との「純利益1ダメージ」の不毛な死闘を終えると、一息つく暇もなく突如としてボーナスステージへと放り込まれる。
しかしここで我々は、本作における最大のタブー(禁忌)を目の当たりにすることになる。
軽快なステップで、何やら棒状の凶器を振り回すワンさん
いや、武器(ヌンチャク)持ってたんかい!!!
あんなに苦労して己の肉体をサンドバッグにしつつ戦っていたのに、なぜその凶器を実戦で出さないのか。
道中の石や虫や人魂も、さっきのエスパーハゲも、これ一本あれば安全圏から撲殺できたはずである。
「本編は素手縛り、ボーナスステージのみ武器解禁」という、暗殺者としての優先順位が完全にバグっているワンさん。
このゲーム最大の敵は、刺客でもハゲでもなく『ゲームデザインの闇』そのものであった。
親の仇のようにオブジェクトを粉砕。完全なる器物破損。
格闘アクションの主人公が「車や樽など無抵抗な物を壊してストレスを発散する」のは、古来より伝わる業界の伝統芸能である。
理不尽なハゲとの戦いで溜まった圧倒的なうっぷんを、無機物に八つ当たりすることでどうにか精神の均衡を保っているのだろう。
今はただ、そっとしておいてあげたい。
STAGE 2 // 中国娘と、クローン問題
謎のボーナスステージ(器物破損)を終え、舞台は中華風の建造物へ
空飛ぶ「扇」などという、世界観の平和さと殺意が矛盾した謎の伏兵たちを掻い潜って進んでいくと……
ついに新キャラ、謎の中国娘が登場!
延々と続いた「ハゲの呪縛」からようやく解放された瞬間である。
シアンのドレスが目に眩しい。
さぞ多彩で華麗なカンフーを見せてくれるのだろう。注目の攻撃モーションは……!
攻撃1
攻撃2
安定の「2種類のみ」である。
どうやらこの世界の住人は、グラフィックに容量を割くと技のバリエーションが絶滅するらしい。
しかし、歴戦の暗殺者である我らがワンさんは、この短い攻防の中で早くも彼女の「致命的な弱点」を見抜いていた。
(※ワンさんの目線に注目)
ん……?
どこ見てるんだワンさん。暗殺者の本能が、現代社会において一発で懲戒解雇される最悪の方向へと機能している。
「ここが弱点だァーッ!」(※物理+精神攻撃)
中国娘、あまりのセクハラ(恥ずかしさ)により戦意喪失。
カンフーとは一体何だったのか。そして、とんでもない痴漢行為を働いておきながら「礼」だけはキッチリと忘れない男、ワン。
彼のサイコパスっぷりに拍車がかかってきた。
犯罪の匂いを残しつつ、とっとと先に進むと今度は……
まさかのドッペルゲンガー。ワンさんのクローン登場
その姿はまさに「悟空とターレス」。
クローンだけあって、攻撃・行動パターンはオリジナルと全く同じという強敵である。
しかし、戦いの最中で彼には決定的な初期不良があることが発覚する。
殴られると、極端に顔色が悪くなるのだ
一発殴られただけで、重度の黄疸(おうだん)が出たかのように顔面が緑色に染まるクローン。
クローン製造の段階で「肝機能」に致命的な欠損が生じていたとしか思えない。
クローン、急性の体調不良により敗北!
所詮はコピー品。オリジナルの(セクハラも辞さない)健康体には勝てなかったのだ。安らかに眠れ。
続くステージ(2-3)では、殺意を持った鞠(まり)が大量に落下してくる。
カンフーの世界観に突如として割り込む手毬。相変わらずこの世界は、重力と敵のチョイスがおかしい。
そしてボスの部屋には、またあの中国娘が。相変わらず使い回しのエコ精神が素晴らしい
強敵の再来に、ワンさんが取った戦法とは──
面倒くさいので、初手から弱点(セクハラ)を連打!
もはや武術の誇りなど微塵もない。確実に効く「嫌がらせ」のみを徹底的にスパムする。
段々と人間として穢(けが)れていくワンさん。暗殺者としての倫理観すら底を突き破った瞬間だ。
相手が女だろうが一切容赦しない男。またしてもワンさん勝利!
中国娘を社会的に倒すと、またまたボーナスステージへ
(※今回は怒りに任せてパーフェクト達成)
STAGE 3 // ジャッキー・チェン、三度の登場
八つ当たりのボーナスステージを終え、舞台は城内らしき場所へ
フード僧3人同時蹴り!
これぞ格闘アクションの醍醐味。
「操作性が悪い」と散々文句を言ったPCエンジン特有の“キャラのデカさ”が、ここに来て初めて「爽快感」としてプラスに機能した瞬間である。
調子に乗ってザコを蹴散らしながら進んでいくと、ついに3面のボスが登場する。
しかし、そこに立っていたのは……
どう見てもジャッキー・チェンである。
映画界の巨星が、こんなB級カンフーゲームに許可を取って出演しているわけがない。
コンプライアンスという概念より「似てるから出そうぜ」というサービス精神(悪ノリ)が勝っていた、1980年代のおおらかな闇である。
流石は世界的スターだけあって普通に強い。
ジャッキー映画特有のアクロバティックな動きに苦戦を強いられるが……
激戦の末、なんとかワンさんの勝利!
膝から崩れ落ちるポーズが無駄にリアルで良い。
NGシーンのテイクとしてエンドロールで流してほしいレベルだ。
ハリウッドスターとの激戦の余韻を残し、次のステージ(3-2)へ。
1面の時と同じく、背景が「夕焼け」になった他は一切の変化なし
「パレットの色を夕方に変えるだけでステージを量産する」という開発側のSDGsなエコ技術は、ここで遂に3周目に突入した。
嫌な予感がする中、現れたボスは……
またしてもクローン(使い回し)。
「ええ加減にしろよ!!!!!」
開発陣の圧倒的な手抜きに、ついにプレイヤーとワンさんの怒りがシンクロした。
何回も同じ奴に出しゃばられてはテンポが悪いので、ワンさんには怒りに任せて「本物の百烈拳(※自傷ダメージなしの完全版)」を強引にマスターしてもらった。
クローン、瞬殺
2回目の登場だというのに戦法が全く同じだった。
学習機能が一切実装されていないのがクローン最大の弱点である。所詮、オリジナルの怒りには勝てない。
圧倒的な暴力でクローンを消し暴力でクローンを消し飛ばし、高揚した精神を落ち着かせて次の面(3-3)へ。
お約束通り「夜」の背景に
それにしても、此処まで「昼→夕方→夜」を三日三晩ぶっ続けで戦い抜いているというのに、ワンさんは息切れ一つしていない。
肝機能に問題を抱えたクローンとは対照的に、オリジナルの体力は完全にバケモノである。
そして、この夜の闇に紛れて現れたのは……
またお前かよ。(ジャッキー再登場)
同一人物が数回もボスとして立ち塞がる。大物俳優のバーゲンセールだ。
スクリーン出演料は適切に支払われているのだろうか。
もはや「使い回し」という名のカンフー映画の撮影に付き合っている暇はない。
ワンさんには、カンフーの枠組みを完全に無視した「分身の術(チート)」を強制的に習得してもらった。
※もはやカンフーではない
チートにより理不尽な勝利
超常現象でジャッキーを強制排除。ワンさん勝利!
開発の手抜き(使い回し)に対抗するには、もはやプレイヤー側もシステム(世界観)を破壊するしかないのだ。
頼むからもう出てこないでくれ。
STAGE 4 // 使い回し地獄と、版権のオーバードーズ
幾多の死闘(とセクハラ)を乗り越え、とうとう物語は最終ステージへ。
最終面の舞台は、いかにも悪の親玉が潜んでいそうな地下洞窟
さすがはラストダンジョン、敵の苛烈な攻撃も最高潮に達する……と思いきや。
お 前 ま た 来 た の か
何度倒しても現れるクローン。もはや敵意というより「ストーカーの執念」に近い。
最終ステージの高揚感を一瞬で冷めさせる、使い回しの極致である。
さすがのワンさんも「こいつ、物理で殴ってもキリがない」と悟ったのだろう。
ここで突如としてカンフーの枠を完全に逸脱した新兵器を投入する。
気功波(百歩神拳)発動
細胞レベルで消滅
飛び道具でクローンを完全に焼却。南無〜
「灰になるまで焼けばリスポーン(復活)できまい」という暗殺者の冷徹な判断。
二度と使い回しができないよう、文字通り細胞レベルで消し炭にしてやったのである。
しかし、ワンさんが安堵したのも束の間……
今度はジャッキー(4度目)が、黄金のオーラを纏って再登場
ジャッキーの無断使用に飽き足らず、某超有名格闘マンガの「スーパーサイヤ人」の概念までパクり始めた。
コンプライアンスのオーバードーズにより、もはやこのゲームの存在自体が違法建築である。
画面越しに伝わってくるワンさんの「・・・もう勘弁してください」感
さらに、ステージの最後にはお約束のギミックが待ち構える。
背後から迫るインディ・ジョーンズばりの巨大岩。
普通なら走って逃げるところだが、ワンさんはこれを「ひたすら殴りまくって止める」という狂気のパワープレイで回避する。
ジャッキー、ドラゴンボール、インディ・ジョーンズ。1987年のハドソンには、著作権はおろか物理法則という概念すら存在しなかったようだ。
THE FINAL BATTLE // 悪の帝王(ただの泥酔爺)
数々の理不尽とパクリの嵐を抜け、ついに最深部へ。
さあ、いよいよワンさんの標的である「暗黒帝王」との最終決戦か!?
【悲報】そこにいたのは、ただの酔っ払った爺さんであった。
じーちゃんが暗黒帝王?いや、そんな訳がない。完全に顔が赤らんで仕上がっている。
どう見ても、飲み屋の帰りに道を間違えて辺境の洞窟まで迷い込んでしまっただけの一般老人である。
さすがの暗殺者ワンさんも、無関係な(しかも酔っ払いの)お年寄りに手を掛けるわけにはいかない。
優しく声を掛けてあげることにした。
ワンさん「おじーちゃん、こんな所にいたら危ないからどいてなさ──」
「 ぶ べ ら !! 」
優しさの対価は、顔面への痛烈なカウンターであった。
間違いねえ、こいつが暗黒帝王だ!
人の好意(コンプライアンス)を平気で踏み躙るクソジジイを許してなるものか!
コテンパンにしてやると向かって行ったワンさんだったが……
このジジイ、恐ろしく強い。全く隙がない
フラフラとした怪しい動き、そして手に持ったひょうたん。
……まさか、この老人の拳法は『酔拳』!?
怪しい動き
映画「酔拳」の蘇化子
完全に一致。
なんと、弟子(ジャッキー)だけでなく、師匠(蘇化子)まで無断でこのゲームに出演していたのだ。
道理で強いはずである。肖像権の無法地帯、ここに極まれり。
しかし、ここで負けるわけにはいかない。
ワンさんも己の出せる全て(理不尽なヒット&アウェイなど)を駆使して戦い抜いた! その結果……!
ワンさん、激闘の末ついに暗黒帝王(蘇化子)に勝利!!
……しかし、喜びも束の間。
突如として、謎の大落盤が発生!
ただでさえ「歩いている僧侶と肩がぶつかっただけでダメージを受ける」という虚弱体質のワンさんが、頭上から降り注ぐ数十トンの岩石に耐えられるはずがない。
さらばワンさん! 命の軽すぎるあの世で幸せに!!
……って、勝手に殺してはいけません。ちゃんと生きてます(物理法則無視)。
EPILOGUE // 宿命の果てに
暗黒帝王(酔っ払いのじーちゃん)を打ち倒し、落盤からも生還したワンさん。
画面は切り替わり、これまで激闘を繰り広げてきたボスたちの名前を振り返るエンドロールへと突入する。
しかしここで、我々は最後の最後に「衝撃の事実」を知ることになる。
「沙羅李曼」……サラリーマン。
「星 厳呉」……C言語。
「いや、現代社会の歯車とIT用語の当て字じゃねーか!!」
カンフー界の強敵たちの正体は、まさかの「サラリーマン」と「C言語」であった。
ITエンジニアとしてこれまで様々なシステムや障害と格闘してきたが、まさか『C言語』という名前のバグ(敵)を物理でボコボコに殴り倒せるゲームがあったとは。
ある意味、エンジニアの長年の夢を叶えてくれた名作なのかもしれない。
宿命の敵を倒し、これまで戦ってきたボス達(主に社畜とプログラミング言語)を回想するワンさん。
今の彼の胸中に去来する思いとは何なのか? それは誰にも解らない…。
劇終